ありがとう シャルトル大聖堂 (フランス)

イル・ド・フランスの白い一本道

パリに行ったとき、朝日新聞の文化特派員だった根本長兵衛さんにドコカを案内してもらうことになった。心の温かいユーモアのある人だ。編集委員論説委員もされ、「企業メセナ」の初代専務理事となり、文化交流にたいへん貢献された。僕より3,4歳年下、今年1月4日に逝去された。
あのころは僕も若くて元気だった。根本さんが「まだ見ていなければ、シャルトル大聖堂がおすすめ」と言われた。

パリから南西に80キロ。根本さん運転のクルマで行く。パリ市街を出るとすぐ、イル・ド・フランスの広大な緑と黄色の畑となり、これが果てしなく続く。フランスは農業国だ。エッフェル塔ムーランルージュだけでは気がつかぬ。

お天気はいいし、助手席でぐっすり眠りこんでいると、肩を小突かれて起こされた。白い一本道の先、丘の頂上に何かポツンと尖った物が2本現れ、やがてその全容を現す。「ワーッ! でっかーい!」と叫ぶ。
「列車でも行けますが、この突然の現れ方を見せたかったのです」と根本さん。優しい根本さん、ありがとう。

イデアマンのガイド氏

シャルトル大聖堂の外側を5分ほど見て、高い尖塔を一、二度見上げて中に入る。根本さんは「一人で見られるほうがいいでしょう」とぼくを残して、ドコカへ行ってしまわれた。たしかにそのほうがありがたい。

ステンドグラスや、宗教画や、彫刻や、高い天井、こういうものは20分見ればどこでも飽きてくる。世界各国の観光客のほうに目が行く。しきりに笑い声の上がる大型グループがあったので、そばへ近づいてみると、髭を生やしたラテン系ガイド氏が、ゴシック建築の説明をしていた。言葉は全くわからないが、見ていればわかる。

まず男性客を二人、前に出し、向かい合って立たせ、手をつないでアーチを作らせる。これに別の男性客をぶら下がるせると、もちろんクニャ〜と下がる(4コマ図1,2)。しかし4人の男性で2つのアーチを交差させると、大の男がぶら下がっても平気である(図3,4)。
このゴシック様式の発明で、建物を高く、高くすることができるようになった。

次にガイド氏は、男性客をたくさん前に出して向かい合わせ、4人の1人が、空いているほうの手で隣の人と手をつないで連続アーチにすると、壁(A)のようになる。そしてそれぞれのアーチの下に男性が入り、ぶら下がった(この絵は、描きにくいので、隣のアーチとのつながりは省略)。

さすがに体重の重そうな男性がぶら下がったアーチは、危なっかしそうで、アーチが悲鳴を上げていた。そこで今度は女性客たちを呼び出して、外側の男性の背中にもたれかけさせた(B)。

すると不思議、シャンとなるのであった。そういえば外側にはにそんな縦長三角形の壁があった。あとで根本さんに言うと、「そんな名ガイドがいるとは知らなかった」と残念がられたが、その後、きっと会われたことと思う。アイデアマンのガイドさん。ありがとう。


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