ありがとう ロングハウス (食事のマナー)

          
われわれ一行は、村長のお宅で、昼食のご馳走になった。壁を背にして向かい合って座った。食べ物の食器が運ばれ、床の上に置かれた。

まず給仕する人が、錫製のお盆にボウルを乗せて運んでくる。次に錫製のポットからお湯を注いでくれるので手を洗う。食前、食後に必ず行う。錫はマレーシアの特産だが、おそらく食器も水も食料も、前もって観光開発公社の人たちが、持ち込んでくれたのだろう。たぶん料理人も。森林の昼食会はとても美味しかった。
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 マレーシアに着いた1日目にラットさんは、ぼくらを集めて、珍しくまじめな顔をして、回教徒の多い国、マレーシアのマナーを教えてくれた。 
人にものを渡すのも、人から受け取るのも右手を使う。回教国の人々は、トイレで水を使って左手でじかにお尻を洗う習慣があるから左手は不浄とされているのである。
つい忘れて左手を出してしまうから、のちの展覧会では、<ココナツの殻に手を突っ込んで旅行をしているマンガ>を描いた。
そのほか、人差し指で人や物を指さないこと。東南アジア全体、男でも上半身ハダカになるのを嫌がる。

それらのことは、「スマートな日本人」(日本交通公社刊・新潮文庫)や「ドタンバのマナー」(新潮文庫)をかいたのだから、イスラムのマナーも知ってはいた。(いずれも絶版)。

もちろん、カレーもご飯も、右手でつまんで食べていた。ただ大皿の料理を共同のフォークやスプーンで取るとき、右手を使っていると、カレーやつばで柄がベタベタになる。


ハッと気がつき、周囲のマレーシア人を見ると、料理を取る共同のフォークやスプーンは、みんな不浄な左手で持っている。「左手はいけない」と思い込んでいたが、この場合は左手のほうがきれいわけだ。
        

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