ありがとう 大晦日ライブ

 
晦日の夜から元日にかけて、日本では百八つの除夜の鐘の音を聴いて煩悩をなくすという。いつもはテレビで見ているのだが、一度だけ浅草寺に行ったことがある。まだ大阪に住んでいた若いころのことで、司馬遼太郎さんが新聞に書かれるコラムの挿絵を描くためにご一緒させていただいたのである。
除夜の鐘のライブを聴いたのは、長い人生でこのときただ一度である。司馬さん、ほんとにありがとう。
 
海外マナーの本「スマートな日本人」の取材で海沿いのバリ島のホテルに泊まったときも大晦日だった。ホテルの客はほとんどが、オーストラリア人と米国人で、大晦日から元日にかけてダンスパーティーが開かれた。
団体ツアーの日本女性を見かけたので、「すっごく下手クソですが」と、シャルウイダンスをお願いした。
このとき生体験したのは、西洋人女性のお尻のでかさと、それを振る腰の力であった。ラッシュアワーのように混んでいるので何度も「ボーン!」「ボーン!」と、たくさんのお尻をぶつけられ、もちろん気持ちのよいことではあるが、足元がフラついて、パートナーの足をよく踏んだ。ありがとう、煩悩をふやしてくれて。
 
もう一度、大晦日のライブ体験をしたのは、ロンドンのトラファルガー広場である。あの広場の中心にあるネルソン提督の記念碑の周りには、夜になると大勢の若い男女が集まってくる。カノジョ探しで足早にすれ違う青年たちが、僕の肩によく当たったが、白人はみんな必ず「エクスキューズミー」といった。英国のマナーの良さには感心した。
カウントダウンがゼロを告げると、「ア ハッピー ニュー イヤー」の声が上がり、あとはもう「チュー」「チュー」の大合奏音。ホテルからすぐなので見に行ったのである。誰にでもキスしてくれるというウワサもあったが、それはなかった。確認できてありがとう。


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