ありがとう 中国旅行


 
   漫画家仲間と北京、西安、上海、蘇州、桂林などを観光旅行したことがある。
 メンバーは小島功さん、東海林さだおさん、みつはしちかこさん、古川タクさん、砂川しげひささん、ヒサクニヒコさん、故園山俊二氏夫人、他に女性編集者が一人、そしてビデオを撮影してくれた東海林さだおさんのお嬢さん。
 漫画家というのは、誰か一人が面白いことを言うと、それを受けて、みんなが競い合うように面白いことを言うものである。だから漫画家の旅行には笑いが絶えない。私も笑い上戸で涙まで出すタイプだが、お美しい園山夫人もそのようで、「やめて、もう! シワがふえます!」とおっしゃった。以来、中年女性三人に「プリーツ隊」というあだ名がついた。

  小島功さんが最年長で、次が僕。その僕が言うのもなんだが、全体に平均年齢は高く、動きがどことなくゆっくりしている。その中でジーンズにブルゾンの東海林さんのお嬢さんのきびきびした動きには、ハッとさせられるお色気があった。われわれに較べると足が長い。色白で面長の」中国的美人である。僕の安カメラはついついそちらを追う。
「サンペイさんはお嬢さんばかり撮っている」と、なんでもすぐ気がつくヒサクニヒコさんに言われ、プリーツ隊に「そうよっ!」と、糾弾された。「だって楊貴妃や西施だって、こんなにきれいだったかどうか?」
 
 東海林さだおさんが、蘇州から上海に向かうコンパートメントの列車の中で、「これほどウワサがたつと、いちおう父親として、聞いておかねばならない。いったいウチの娘をどうしたいと言うのかね」と聞いた。僕は即座に「結婚したい」と答えた。また、園山夫人が声を上げて笑い、目尻を押さえられた。「今の奥さんとはどうなる?」「別れます」。「これからの生計は?」「国民年金で。足りない分はお義父さんに出してもらう」。園山夫人がまた目尻を押さえられた。

 旅の運、不運は天候が左右する。ふつうは晴天だと運がいいというが、桂林だけは、霧が立ち込めているような状態でないと、あの水墨画風の美しさは見られない。その日はあいにくの上天気であった。
 桂林空港に着く直前、飛行機の窓から眺めていた東海林さんは、霧のない山々を見て、「ウンコみたいだ」と表現した。お嬢さんとお父さん、どうしてこうも違うのか。


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