本場のソバの食べ方(笑顔の連載から)

<

 
 松本市内のソバ料理店で、地元の人たち数人とお酒を飲んだ。
 途中でざるソバが出たので、僕はおつゆに刻んだネギやワサビを入れてかき回し、たっぷりつけて食べると、地元の人に注意された。
「ソバの上に薬味をまず乗せてから箸でつまみ、おつゆにつけます。ただ箸先までつゆにつけないでください」と。
 それで言われたとおりにやってみると、おつゆがあまりつかないので淋しい味だが、ソバと薬味の香りはよい。これが本場の食べ方らしく、江戸落語にも「死ぬ前に一度はつゆをたっぷりつけてえ」というのがあるぐらいだから、江戸っ子ならご存知と思う。が、うどん系の関西出身は、知らない人が多い。
 最後にソバ湯の入った赤い塗の什器を取って、自分のつゆ椀に注いだ。飲んだら今までの酔いがさめるほど不味かった。出されて長く放ってあったからソバ湯が沈殿し、冷めた不味い上澄みのお湯が出たのだろう。
 気がつくと、みんなは什器をドッポンドッポンとよく振り、そば湯を注いだ。見るからに美味しそうな乳白色だった。
 それ以後、ソバつゆのつけ方は、どうでもよいが、ソバ湯だけはドッポンドッポン振ることにしている。