この夏はいろいろあってサボりました

フジ三太郎旅日記』から[ケニアのサファリ旅行]を載せたいと思ったのです。


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 ある年の春だった。どなたかのお祝いパーティーがあった。その会場のすみっこにマンガ家のヒサクニヒコさんがひっそりと立っていた。近づくと、「アフリカに行きません? この夏」 と、いきなり誘われた。
「アフリカ? 何しに?」
「サファリですよ。動物を見に行くんですよ」
「動物?」
 ボクは動物にはそんなに興味はない。
 ヒサさんは鼻の高い品のいい顔立ちだが、少し小肥りで鼻下にヒゲをたくわえている。黙って
いれば、おっとりとした紳士に見えるのに、冗談が多いから、だれもそうは思わない。
「動物には興味がなくても自然がとてもいいですよ」
「……アフリカのどこ?」
ケニアですよ。大草原に日が落ちる。日がまた昇る……」
ヘミングウェイの世界ね」
「そうですよ。夜は満天の星、星に手が届きそうです」(本文P1から)。

  
 
 こんな語り口で、動物や自然や仲間の面白い話をいっぱい紹介したいと思ったのですが、本の活字をスキャンでデジタル化することや、縦組みを横組みに変えたり、絵の入れ方などなど、老いたるボクにはとてもムリなことでした。「サファリ旅行」だけでも50ページもありますから

取り組んでいるうちに軽い肺炎になりました。すぐ治りましたが、それからだらしなくなり、オリンピックも終わりになるほど、「新体操」や「シンクロナイズ」や「野獣の金メダル」などと、面白くなり、パソコンよりテレビに釘づけになりました。 

それに今年はひどい酷暑でしたね。ついついシャワーを浴びる機会も多く、一度足を滑らせて、スッテンコロリと、お尻を床にひどく打ちました。幸い、頭はプラスチックの椅子の上にふんわりと落ち、今のところ中身に影響はなかったように思います。

絵をいくつかご覧いただきたいと思います。

 

これは猛獣のチーターがいきなり僕らのジープのボンネットにに乗ってきた絵です。
手で背中をなでて、豪胆な感じですが、あとで別の車から撮った連続写真をヒサクニヒコさんから見せられました。それによると、チーターがバンパーに足をかけた瞬間、女性たちは立ったままでしたが、僕の首だけはもう引っ込んでいました。

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 ケニアの首都ナイロビは、赤道の少し南にあり、国際空港の入り口には、すでに2台のサファリカーが待っていました。運転手のほかに5人乗るのがちょうどいい。大草原の真ん中で故障したら、帰れないので、最低2台でゆく必要があります。だから10人、15人、20人と団体を組むのが正解です。


 アフリカには地球的規模の大きな溝が南北に走っています。南北の大きな長い峡谷で大地溝帯と呼びます(後で出てきますので先に一言)。

 ケニアの空港から一気に300キロ先の「サンブール動物保護区」に行くのです。途中、赤道のあたりに村があり、こんなバケツを持ったケニア人がいました。

  北半球で風呂の水を流すと、時計の針とは逆に左回りの渦を描いて穴に流れ落ちていく。ところが、南半球では反対に右回りの渦になるという。「では、赤道直下ではストンとまっすぐ?」その実験を見せてくれるのです。 
 ボクたちが取り囲むと、男はバケツの水を、青いポリ容器に移しました。その水の上に小さなワラくずをパラパラと浮かべる。容器の底には小さな穴があいていて、裏側から指でフタをしていたのですが、指を外すと、ワラくずは水と一緒に真っすぐ下に流れ落ちました。

「ふーん!」。ボクらは、素直に感心しました。やはり赤道の真上ではまっすぐ落ちるのか。

 次に、男は七、八メートル北半球のほうへ歩いて行きました。そして「こっちへ来い」と手招きをしました。そこで同じ実験をすると、今度はワラと水が左回りの渦を巻いて流れました。

 「ワーツ、やっぱり北半球だ!」と、みんな感心しました。
 
 さらに、男はふたたび赤道をまたぎ、つまり南半球へ七、八メートル行って、同じことを繰り返しました。渦は、見事に逆向きに流れました。

 「ワーツ! やっぱり南半球だ」と、また一同で感心しました。

 しかし、ヒサクニヒコ隊長だけは首をかしげ、「いくら何でも、地球規模の話がこんなわずかの距離で現れるものかなあ」「だって、見たじゃないか」「でもねえ…‥」。
 
 
 帰国してから、朝日新聞旅行記を書くと、科学に強い記者がいて、あれはコリオリの力と言って、マサチューセッツ工科大学で、外気と遮断し、完全な水平を作って初めて実証されたのだそうです。 「だって、オレ、うちの風呂の栓で実験したら、やはり北半球回りだったゾ」と言ったら、「お宅の風呂が傾いているのでしょう」と言われました。



 一番動物の多いのは、「マサイマラ動物保護区」です。ここへ行くには、地球的規模の縦じわ「大地溝帯」を越さねばならない。大きな崖を土煙をあげて下りたり登ったりするのです。前回、土煙もうもうで前が見えなくて懲りたらしく、今回はターボプロップの飛行機で飛び、大草原のなかの一本の白いふんどしみたいな滑走路に降りました。

マサイマラのテント生活は素晴らしかった。この話、いつかご紹介したいです

静かな朝、低空を飛ぶゴンドラもたまらないです。

降りたところで、朝食のシャンパンパーティーを開きます。地球の周りには低い霧が立ち込めていました。


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