ありがとう ベニスの朝

水の都ベニスに一人で一泊したことがある。翌朝、水上タクシーで空港に向かう。途中で右舷前方から大きな汽船がやってきた。船の手すりに小学生たちが、鈴なりになっていた。それにしても手すりにいるのは、男子ばかりであった。ぼくに手を振っているようなので、僕も大きく手を振った。何か大声で僕に叫んでいるようだった。

船が近づくと、それがはっきりし、口に手を当てメガホンにして、叫んでいるものもいた。たぶんイタリア語だろうが、ナポリタンとかカンパリぐらいしか知らない。子供たちは人差し指をぼくの前方に突き出しているようにも見えたので、タクシーの左舷前方を見ると、1隻のランチがゆっくり走っていた。

その舳(へ)先には、美しい金髪の裸女が乗っており、髪に手をやり、のけぞったポーズをとっており、撮影中だったのだ。朝の光を浴びた白い肌、上下とも金色だった(よく問題になる。ならないか?)。
もっと見ていたかったが、恩人の小学生諸君の船も気になる。振り返って、「グラーチェ! サンキュー! グラーチェ!」と、手を振って大声でお礼を言った。みんな、責任を果たしてホッとしたようであった。

裸女にも聞こえているだろう。「ふん、何がグラーチェよ」。
それにしても親切な子供たちだ。「早く見ろよ」「行きすぎちゃうよ」「オレたちに手を振ってる場合じゃないだろ」と言っていたに違いない。ほんとに君たちは親切だ。ありがとう。



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